634 鏡の中のあなたへ ノーラ・ロバーツ

鏡の中のあなたへ (ノーラ・ロバーツ・コレクション)

鏡の中のあなたへ (ノーラ・ロバーツ・コレクション)

冷たく美しい女に利用された過去を持つブースは、その陰鬱な記憶を書き綴り素晴らしい脚本を作り上げた。だが、ブースの思い描くヒロインを演じる、相応しい女優が見つからなかった。メロドラマの主演を務めているというエイリエルを見た時、ブースは戦慄を覚える。オーディションの演技は、完璧だった。あまりに完璧すぎて、エイリエルと、かつての妻エリザベスが重なる思いに苛まれる。
ブースは、エイリエルに惹かれながらも、エリザベスが植え付けた猜疑心に囚われていた。
エイリエルは、恋に落ちたことを自覚していた。でも、彼の信用を得ることは大変な苦労になりそうだ。それでも、彼女はブースを暖かい日向に連れ出し、笑うこと、楽しむことを思い出させて行った。
孤独でいることが、自分の選んだ人生のはずだった。だが、心に入り込んだエイリエルの面影は消すことなど不可能だった。
彼女の愛を受け取ることを拒んだブースは、エリザベスが復讐しようとしていることを知り、エイリエルに知らせる必要を感じる。話だけして帰るつもりだった。だが、一度触れてしまうと、もう歯止めが効かなかった。二度と彼女から離れることはできない。
エイリエルは弟ジェイミーの忘れ形見である甥を引き取るために、裁判を起こしていた。後見人である祖父母は、一人娘を奪ったジェイミーを憎み、孫であるスコットを全く愛していなかった。できるだけスコットを傷つけたくない思いで、エイリエルは誰にもその事実を話さずにいたが、低俗な新聞に暴かれてしまう。
彼女を信頼すると決めた直後の衝撃に、ブースは怒りを感じた。そんなに重要なことを、秘密にしていたエイリエルを許せない。
その時、スコットが行方不明になったと知らせが入る。4歳の無防備な子供の危険を考えて、動顛するエイリエルを見て、ブースは自分が彼女に必要なのだと痛感し、怒りは消えていった。
泣き腫らし、憔悴するエイリエルの元に、見知らぬ人に手を引かれたスコットが現れたのは、一時間後だった。
知らせを聞いて、やって来た祖父は、自分たち夫婦がスコットを養育する気がないことを弁護士に話すつもりだと明かした。
もう、身を引き裂かれる思いで、スコットに別れを告げばくてもいいのだ。エイリエルはブースに逃げ出すチャンスを与えたが、彼はもう逃げるつもりはなかった。


外見は似通った二人の女。でも、実態は全く違う。しばしば混同してしまうのに、彼女が欲しいという思いは強烈で、全身全霊で愛そうとする彼女の姿は、喜びであり苦痛だった。
傷つきながらも、欲しいものに忠実な彼女って素敵だと思いました。