527 謎めいた相続人 ジュリー・コーエン

謎めいた相続人 (ハーレクイン・アフロディーテ)

謎めいた相続人 (ハーレクイン・アフロディーテ)

美しい母や姉妹に囲まれて育ったゾーイは、16歳の時、両親の話を盗み聞いて家出をする。その言葉に打ちのめされていたゾーイは、ニューヨークの薄汚い路地裏に縮こまり心の痛手を乗り越えた。大叔母ジーニャはゾーイにシャワーと寝床を与えたが、詮索することなく、18でゾーイが独立してからも時々ゾーイを泊めてくれた。ある日、ゾーイはジーニャが亡くなったことを知らされ、世話人に指名されていることを弁護士から言われた。そして、ゾーイはジーニャに指定された装束を揃えるために、ジーニャの部屋を訪れるが、部屋の前に魅力的な男性が待っていた。
ニックは16年前に家族を捨てた父を捜していた。突然父から届いた手紙がニックを駆り立て、疑問と非難を父に浴びせたいと焦っていた。頼みこんで部屋に踏み込んだものの、そこには誰もいなかった。だが、消印のあるこの場所から離れることはできない。ゾーイはその言葉を受け入れ、彼が泊まることを許した。遺言公開で何かわかるかもしれないと提案されたニックは、ゾーイと共に弁護士事務所に行き、ゾーイと家族の間の溝に気付かされる。遺産のほとんどは甥の娘であるゾーイに残すという内容を聞いて、ゾーイはその場から逃げ出した。涙が止まらない。ゾーイを追いかけて来たニックは、その姿を見て衝撃を受けた。彼女は強靭に見えて、内面はとても弱い。だが、守ってやりたいというニックの心を、ゾーイは痛烈に非難し、はねつけた。ゾーイは自分を強く保つために、ニックを拒絶して彼を追い出すが、弁護士からの電話でジーニャがニックの住む近くにコテージを持っていたことを聞かされて彼の後を追った。ニックの父はそこにいるに違いない。一緒に行くというゾーイの言葉に、ニックは希望を持った。今や、ゾーイはニックの望む全てだった。こんなに欲しいと感じた女性はいない。だが、コテージで情熱的な時間が過ぎた後で、ゾーイから聞かれた重要な質問に、ニックは失敗する。恋したことはあるかとゾーイは聞いた。今まではなかったというつもりで、ニックは「ない」と答えたが、ゾーイは愛されていないと解釈する。翌朝、ニックは歩み寄る父を前に、立ち去るゾーイを引き留めることができなかった。茫然と立ち尽くすニックは、今まで抱えていた怒りや憤りが消えるのを感じた。この男性は馴染みのある他人でしかない。愛する女を捕まえる方が先決だ。
ゾーイは立ち去る際に、ニックが腹立ちまぎれに怒鳴った愛しているという言葉に引き留められていた。トラックの鍵を落とし、踵を返したゾーイは、来た道を走りだし、駆けて来たニックの胸にまっすぐ飛び込んだ。


愛されたい。でも、拒絶されるのが怖い。去られるくらいなら、孤独な方がいい。寂しい女の前に、素敵な男性が突然現れ、彼女を欲しがるが、自身を守ろうとするあまり、真実を言えずに立ち去ろうとする。という話。