646 もうひとりの私 シャーロット・ラム

もうひとりの私 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

もうひとりの私 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

外交官であるガウリは、妻子をチェコの田舎町に住まわせ、仕事に励んでいたがロシア侵攻が始まり帰国を決める。しかし、迎えに行くと、娘は流行病で亡くなり、呆然自失となった妻は、ナニーの娘を自分の娘だと言い離そうとしなかった。時を同じく、ナニーをしていたジョハンナの夫パヴェルが殺されたと知らせが入り、身重であったジョハンナは幼いアーニャを抱えて途方に暮れる。気弱になったジョハンナに、ガウリは言葉巧みに取り引きを頼み、アーニャを自分たちの娘キャサリンとしてアメリカに連れ帰った。
ソフィーが生まれてしばらくして、ジョハンナは再婚した。そして、新しい夫との間に息子も生まれたが、ジョハンナの罪悪感は消えることがなかった。
ジャーナリストになったソフィーが、アメリカに行くことになったことを知って、ジョハンナは初めてソフィーに秘密を打ち明けた。白血病と診断されたジョハンナの余命は三カ月、亡くなる前に一目アーニャに会いたいというのが、ジョハンナの望みだった。
おりしも、ガウリは義父の経済的援助を受けて、大統領選に打って出る工作中であった。ソフィーはただ母の望みを叶えたい一心だったが、破滅を恐れるガウリは危機を感じ、ソフィーの抹殺を命じた。
ソフィーは二度刺客に襲われるが、運よくキャシーに会うことができ、彼女に真実を打ち明ける。
キャシーは動揺し、夫ポールに打ち明けるが、彼から拒絶され哀しみに暮れた。ポールは驚愕と怒りを感じていた。
ポールはキャシーを心から愛し、溺れきっていた。だが、全て終わってしまった。
ソフィーの身を案じて、やって来た彼女の上司はポールを見て真実に気付く。ポールこそ、死んだはずのパヴェルだったのだ。話を盗み聞きしたキャシーは自ら命を落とし、彼女の亡きがらを抱いてポールも命を絶った。
ジョハンナは一度だけアーニャと電話で話をしたあと、発作を起こし彼女の死を知らぬまま亡くなった。
全てを暴露されたガウリは、離婚を言い渡され、後ろ盾を失くした彼は政治の表舞台から消えた。


一つの真実が、転がる雪玉のように、何もかもなぎ倒し破壊していく悲惨な話です。学生運動のリーダーだった父親は亡くなった留学生の名を借りて逃亡し、やっと人並みの生活ができるようになった時、妻は再婚して新しい家庭を持っていた。富を築いた彼は、パーティで妻にそっくりのアメリカ娘に惹かれ、結婚を決める。
しかし、ガウリの秘密を知った時、彼は禁忌を犯したことに気付き、何とかキャシーを守ろうとするが、もはやどうすることもできなかった。ガウリが富と権力を得るために使った駒は、禁じ手でしかなかった。