613 スワンの怒り アイリス・ジョハンセン

新版 スワンの怒り (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

新版 スワンの怒り (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

夫リチャードの昇進のためのパーティで、ネルは全てを失った。
ニコラスは、麻薬組織のボス、ガルドーがネルを標的にした理由がわからなかった。だが、彼が秘密裏に手に入れた情報には、殺戮のターゲットは彼女だった。
ネルは、平凡な女だった。一人娘を溺愛し、内気で、人目を引くことなどない、ちょっと太めの主婦そのもの。彼女が、殺し屋マリッツのナイフに対抗することなどできるはずがなかった。それでも、娘だけは守りたいとマリッツをベランダから突き落とそうとするが、逆に自分が転落する。
ニコラスが駆け付けた時、既にネルの最愛の娘は殺されてしまっていたが、ネルの心臓は動いていた。そして、岩場に落ちた彼女の顔の骨は、粉々に破壊されていた。
ニコラスは天才的な外科医の友人の元に、彼女を運び込み、彼の手に彼女をゆだねた。ジョエルの手で、ネルは絶世の美女になったが、ネルに生きる気力はなかった。
ニコラスは彼女に復讐という生きる目的を与えた。
愛する娘を殺した男に、報復したい。ネルは生まれ変わった。
格闘技を身につけ、銃の使い方を教わり、ネルは機会を待った。
そして、彼女は自分が標的になった理由を知った。リチャードはガルドーのために、マネーロンダリングを手掛けていたのだ。そして、別の取り引き相手が見つかったことで、ガルドーの仕事から手を引きたいと考えたが、ガルドーはリチャードを手放すつもりがなかった。リチャードを恐怖に陥れるために、ガルドーはリチャードの妻を殺そうとしたのだ。
マリッツは、自分が仕事を仕損じたことに我慢ならなかった。必ずネルは仕留めなくてはならない。
ニコラスは、長年の目的だったガルドーへの復讐を果たした。そしてネルも、危なっかしくもあったが、マリッツの息の根を止めることに成功する。
復讐は終わった。二人は愛し合っていた。
けれど、ネルの心はばらばらだった。私にはまだ、彼の思いを受け止める準備ができていない。
ネルの心を尊重して、ニコラスは一人で我が家に戻った。いつまでも、彼女を待っていると言って。
そして、一年以上が過ぎて、彼女は彼の元に現れた。


母親から不器量だと言われて育った娘は、ただ従順でいるしかなかった。家から離れた解放感で過ちを犯し、身籠ってしまった愚かな娘を、父親は現金と出世を餌に、リチャードに押しつけた。彼はネルの罪悪感を利用して、言葉巧みに彼女を操った。全てを失ったとき、ネルはその呪縛から解放される。