537 一度しか死ねない リンダ・ハワード

一度しか死ねない (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

一度しか死ねない (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

セーラは引退した老判事の執事兼ボディガードとして雇われていた。その屋敷に泥棒が入り込み、セーラが一人で二人のコソ泥を撃退したことはマスコミの興味を引き、判事は取材を受けてしまう。敬愛する判事の喜ぶことだと、セーラは承諾し、ただの女執事として紹介される。
男は一目でセーラに夢中になった。彼女は自分に仕えてこそ相応しい。彼はセーラに多額の給料を提示した依頼を送ったが、セーラは断りの電話をよこした。それなら、彼女の障害を取り除けばよい。男は判事を葬り去った。
コソ泥騒ぎの時からカーヒルはセーラに惹かれていた。だが、元妻に浮気され、散々な思いをして離婚したカーヒルは、自分の判断力に自信がなかった。でも、こんなに欲しいと思ったことは初めてだった。セーラも初めてカーヒルを見た時から、彼を求めていた。捜査は進まなかったが、二人の交際はほとんど同棲している所まで進展した。
やがて、セーラの新しい雇い主が決まる。成り上がりの金持ちだったが、セーラは社交的なメリリンを気に入った。
男はセーラが、彼女の価値もわからない格下の家で雇われたことを知って、またしても策略を巡らす。メリリンのパーティに出席した男は、セーラと初めて顔を合わせた。パーティの後の連休を、セーラはカーヒルの家で過ごし、休み明け邸宅に戻って、またしても死体を発見する。
連続で起きた殺人事件の第一発見者であるセーラは、もちろん疑われたが、セーラにとって、カーヒルに疑いの目を向けられたことが何より辛かった。
男はニュースでセーラが容疑者だと疑われていることを知り、彼女が犯人でないことを証明するために、もう一件の殺人を犯す。男はセーラを尾行し、ホテルで偶然会ったふりを装い、彼女の世話を焼き、労わった。傷つき、弱気になっていたセーラは、ついに彼の依頼を引き受ける。
カーヒルはセーラを疑ったことで壊れかけた二人の絆を、何としても修復するつもりだったが、捜査は多忙を極め、新しい職場に行ったきりセーラからの連絡は途絶える。
セーラが目覚めた時、頭は薬で朦朧とし、身体はベッドに縛りつけられていた。セーラは彼を刺激しないように注意し、体力を戻すことに集中しようとしたが、次に目覚めた時には彼女は裸で横たわっていた。入っていたタンポンのおかげでレイプは免れたものの、彼女の拒絶の言葉は彼を激怒させ、暴力へと駆り立てた。
聞き込みの成果で、カーヒルはやっと犯人の名前を手に入れ、彼の動機に気付く。ヤツはセーラを望み、そして今彼女を捕えている。
侵入者の知らせが響き、男はセーラの縛めが緩んでいることに気付かずに部屋を出た。だが、ロープをほどいて男を追ったセーラが見たものは、床に倒れたカーヒルの姿だった。今の私に彼以上に大事なものなどない。怒りに自制心を失ったセーラは、傍らにあったランプを男の頭に振り下ろすが、その時には既にカーヒルの放った銃弾が男の胸に風穴を開けていた。
助け出された二人は病院に運ばれ、傷は数日で癒えたが、セーラが受けた心の傷は二人の間に壁を築いていた。鍛練し、どんなことも対処できると思っていたのに、あの男の前では無力だった。でも、あんな卑劣な男に勝たせる訳にいかない。セーラの動向を恐れていたカーヒルは、やっと彼女を手に入れた。


でもさ、男って聞きたくないことは聞かない遺伝子を持ってるよね。自分が考えてることが絶対で、反論は全て間違ってるって。だから、私は説得なんて無駄なことは随分前にやめたの。死ななきゃわからないんだね、きっと。