523 悲しみにさようなら リンダ・ハワード 

悲しみにさようなら (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

悲しみにさようなら (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

大学を卒業してすぐディヴィッドの妻となったミラは、22歳で母となった。ジャスティンは彼女の愛そのものだった。だが、買い物に出たミラは幼子を力ずくで奪い取られて重傷を負う。腎臓を一つ犠牲にしてミラは生還するが、ジャスティンは戻らなかった。一年後、二人は離婚したが、ミラはジャスティンを捜すことを止めなかった。息子を見つけること、それだけがミラの望みだった。ディヴィッドの援助を受け、行方不明の子供を捜すボランティア団体を立ち上げたミラは、闘士となった。ジャスティンを奪われる際に、ミラは犯人の男を傷つけていた。頬に深い傷を負い、片目がつぶれた男を捜すのに、ミラは全力を傾けていたが、やがてディアスという名を聞く。名前を聞いただけで誰もが身を震わせる、その男をミラは追い始めた。匿名の男から、ディアスが現れるという電話を受けたミラは、現場に向かい、やって来た車の中にあの片目の男を認める。怒りは理性を吹き飛ばし、ミラは立ちあがりかけるが、見知らぬ男に阻止される。翌日、携帯の履歴から匿名で電話してきた男を見つけようとしていた時、いきなり彼がやって来る。ディアスだった。ミラは怯えを見せないように、懸命に振舞い、彼の助力を得る。幼児誘拐をしていた組織は、今や臓器売買に手を染めていた。パヴォンはその手先だったが、親玉ではない。ディアスはミラのために、パヴォンを捕えることを約束し、捜査するうちに、ミラの信頼していた男女が犯人であったことを知る。盗まれた子供が偽の出生証明書を偽造され、養子に出されたことを知ったミラは、ディアスの制止を拒絶して、書類偽造をしていた女に会いに行った。だが、書類は盗み出されており、防犯カメラの映像を見たミラは、犯人がディアスであることを知った。心も身体も捧げた男の裏切りは、ミラに闘志を与えた。コピーから息子の居場所を知ったミラは息子を探った。ジャスティンは養父母に愛され、立派に育っていた。ミラはディヴィッドに会いに行き、ジャスティンを見つけたことを話した。自分にそっくりな息子の姿にディヴィッドは感激し、二人は抱き合って涙を流したが、試練はまだ残っていた。ミラはジャスティンの養父母に電話をかけ面会を求めた。翌日、ミラは彼らに会い、真実を話した。そして、二人に親権を譲るという書類を差し出す。ジャスティンのために、ディヴィッドと自分は姿を現す訳にはいかない。だが、ジャスティンに、要らなくて手放した訳ではないことをわかって欲しい。彼らに全てを委ねてミラは立ち去った。その一部始終をディアスは見ていた。その行為は称賛に値する。しかし、全てが終わった今、ミラは抜け殻だった。泣き叫び、怒り、物を壊し、無気力になるミラを、ディアスは傍らで見守り、世話をした。少しずつ自分を取り戻したミラは、ディアスが自分を愛していることに気付いた。ディアスはミラにプロポーズした。だが、愛し合っている事実は認めたものの、殺し屋の彼とどんな生活をするというのだろう。ディアスはミラの生活に居座り、仕事を見つけ、やがては結婚を勝ち取った。
9年が経ち、ミラとディアスは三人の子持ちとなっていた。ミラは、幸せだった。そして、呼び鈴が鳴り、ドアを開けた時、そこには緊張した面持ちの二十歳の息子が立っていた。


「抱きしめて、二度と離したくない。でも、もう遅い。私たちはもうあの子の家族じゃない。探してきたのは、あの子が無事で、愛されているかどうか知りたかっただけ。あの子は愛されている。」すごく泣けます。6カ月で盗まれた愛する息子を、やっと見つけた時には10年の歳月が経っていた。そのために、我が子の成長を見守る権利は失われてしまっていた。ハッピーエンドではありますが、母親の気持ち的に考えますと、すごく悲しい話です。