妄想 その8 毒を喰らわば・・・

ドアを開けると、ヤツが「おかえりなさーい」と言いながら、バスルームから出てきた。コイツはまた、勝手に人の物を使ってと、苦々しく思いながらヤツを見ると上気した肌がやけに悩ましく思えた。同じ石鹸の匂いなのに、微妙に違う香り。こんな女に自分が懸想する日が来ようとは・・・。だが、こいつが外で吹聴するおかげで、すっかり俺は売約済みだ。毒を食らわば皿までか?もう、どうでもいい。黙って、ヤツを横抱きにしたまま、俺は寝室のドアを開けた。「千秋先輩、どうしたんですか?」答えなんか必要ないだろ。そのまま、ヤツをベットに押し倒す。ヤツがにやりと笑う。ああ、萎えそうだ。だけど、せっかく決意したんだ。ホントは萎えた方がいいような気もするけど。決意も新たにパジャマのボタンを外す。争うようにヤツは俺のシャツに手をかけていた。お互いに着ている物をはぎ取りながら、疑問が頭をもたげた。コイツ、ホントに処女か?だけど、こんな変な女を相手にする物好きがいるとは思えない。ほの白い二つの膨らみを両手で包むと同時に、ヤツは俺の肌に唇を押しあてた。頬を擦り寄せ、舌でなめ回しながらくぐもったつぶやきを漏らす。「センパイの匂い、センパイの味」ああ、やっぱりコイツはヘンタイだ。その舌が小さな乳首を探り当て、強く吸った時、思わず声が漏れた。
「アン!」????なんだ、今の俺の声は。情けない声を出すんじゃない、俺!そんな当惑をよそに、ヤツは探索を続けている。しばらく遠ざかっていたとは言え、俺は経験者なんだぞ。しかし、この繊細な指使いはピアニスト故か。強弱をつけて俺の身体を這いまわる魔法の指。シャワーも浴びていない肌を貪欲に探る唇。ベルトを抜き取り、開けられたファスナーの中にヤツが顔を押し付けようとしているのに気付いて、慌てて最後の一枚を取り去る。無防備になったヤツの両手を封じて、俺はお返しを開始する。ヤツの鼻息が荒いのはいつものことだけれど、こう気持ちよさそうにしていると、つい可愛いと思ってしまう自分に苦笑する。丹念に快楽を誘い、一度めのエクスタシーを味あわせたあとで、俺は準備をする。几帳面な俺は危険は冒さない。ベット横に置かれたチェストの引き出しから包みを取りだし装着する。すっかり潤った場所に狙いを定め、徐々に身を沈めていく。「ぎゃぼっ!」
なんだ、それは!普通に痛いとか言えんのか?障壁を突き破った感があって、やっぱり初めてだったかと、何か嬉しいような感慨を覚えるが、コイツに思考力は必要ない。そんなものを与えたら、何をしでかすか、わかったもんじゃないからな。予測不可能なコイツにどのくらい右往左往させられたか知れない。目的は、快楽と高揚だ。それを享受し合うのみ。ともかく、口は塞いでおこう。半開きの唇に舌を入れると、ヤツの無条件降伏を感じた。ヤツの身体が、収縮して俺を締め付ける。あぁ、最高だ。ドクンドクンと耳鳴りがするほどに、鼓動が速くなって気が遠くなっていく。深くヤツに埋もれたまま、俺はしばらく身動きができなかった。こんなに良かったのは、初めてだ。身体をずらし、寄り添って横たわりながらヤツを抱き寄せる。ヤツは俺の胸に頬を擦り寄せた。「センパイ・・・。」なんか、急にヤツの脳みそが回転を始めた気がする。何を言い出すかを恐れて、俺はバスルームに使ったものの始末をするため立った。戻るとヤツはベットから起き上がって自分の身体を抱きしめていた。また、コイツは何を考えていることやら。俺を見るとヤツはさも嬉しそうに、「自分からセンパイの匂いがします。しばらく、お風呂に入らなくてもいいですか?」と言った。俺は有無を言わせず、ヤツをバスルームに追い立てて隅々まで洗ってやった。そして、不覚にももう一戦挑んでしまったのだった。