久しぶりの妄想 その7 魂魄の対価

雛森」耳元で愛しい声が、名を囁く。
夢うつつの中で、その声は遠くから呼びかけるようにも聞こえた。褥に下ろされた時、既に帯は緩められ、袷は肌蹴られて小ぶりの膨らみが露わになっていたが、彼女の意識は夢の中を彷徨い漂っていた。裾を割って忍び込んだ手が、太腿の内側を滑り、そろそろと上がって来る気配に、彼女の防衛本能が目覚めかけたが、胸の頂を温かい濡れたものが包むと、痺れて朦朧と霞んでしまった。
その指が彼女の核を捕え、固く尖らせる。執拗に蠢く指は、彼女を歓喜の淵に追い詰めた後、引き潮のように唐突に消えた。取り残されてしまった彼女は、それにしがみつこうとしたが、手に入れかけていた恍惚はもどかしく遠ざかって行った。途方に暮れる彼女は、そろそろと重い瞼を開けると、唇が触れそうに近くにある顔を見止めた。
藍染隊長、どうしてこんなことを」
男の手が胸を覆い、頂を揉みほぐす。男は優しげな微笑みを見せて一言だけ言った。「ご褒美だよ」ゆらりと立ち上がった男は、帯を解き身につけていたものを脱ぎ捨てた。雛森は、起き上がりはしたものの、男の身体を凝視する自分に気付いて顔を赤らめた。無駄のない体躯にそそり立つ男根を目の前にして、うつむいた彼女に男はそれを突きつける。顎に指をかけ、仰向かせると、その猛々しいモノで震える唇を突いた。「ずっと欲しがっていたモノだよ。味あわせてあげよう」
抗議の言葉を発する前に、開きかけた唇はそれを受け入れてしまった。口の中いっぱいに広がる雄の芳香は、痺れてしまっていた思考力を狂わせる。雛森はそれの根元にある二つの宝玉さえ愛しげに味わってみせた。付け根から上に伸びる皮の縫い目のような筋に沿って舌を這わせ、亀頭の割れ目までたどり着くと、そこからあふれ出た蜜を吸い取った。
「いいコだ。そろそろ下の口が待ちきれなくなっている頃合だろう」
人形のように、押されるまま褥に横たえられた雛森は、拒むこともなく男の温かい身体を受け止めた。甘い痛みが身体を貫く。亀頭が内壁の上部に沿って最奥を何度も突き上げると、そこから燃えるような熱が広がっていった。灼熱する陶酔を手放すまいとして、彼女は男の腰に足を巻きつけた。手の届かない男を引き寄せることを諦めた両手は自身の胸を揉みしだく。そして、それは唐突に訪れ、雛森は甲高い悲鳴と共に混沌とした闇に沈んでいった。
意識を失った雛森を見る男の顔には、それまでの優しげな面差しはなかった。すばやく衣服を身につけた男は、手水から桶に水を取り、手拭いを濡らすと、雛森の身体から自分の痕跡を消した。
これは、彼女がそれまでに何度も見た密やかな夢の一つに過ぎない。
彼女にとっては現実でさえ夢の一部。本人にも気取られぬままに、魂魄を汚し、手足として動く人形とする為の儀式でしかない。彼女は私の物だが、私の一部では有り得ない。いずれ、時が来たときに相応の働きを見せてくれるだろう。身支度を終えた男は、自らの企みを成就させるための行動を起こす時が来たことを確信し、部屋から足を踏み出した。